あなたの自宅の上空は飛行機が飛んでいますか。はるか上空のエンルート(航空路)を飛行する飛行機は別として、空港への着陸ルートや離陸後の出発ルートはいつも同じ場所を通るとは限りません。なぜなら、航空管制官がレーダーベクター(誘導)しているからです。

 ここでは名古屋空港を例に管制官がレーダーベクターする離着陸のルートをお教えしましょう。名古屋近郊にお住まいの方、これから上空を見上げるときにこんなことを思い浮かべながら飛行機を見てみてください。

★RW34最終進入ルート
 
名古屋空港のRW34(南南東方向からの着陸)の場合ですと、着陸用にILS(計器着陸装置)があります。アウターマーカーは天白区の鴻の巣1丁目にあり、ここをほぼすべての航空機が通過してゆきます。
 空港とアウターマーカーを結んだ線上に
ローカライザーというアンテナから発射された着陸進路を誘導する電波が出ていて、おおよそ磁方位から340度の方向になります。そのため滑走路も34(340の上2ケタを表示)という表示になるわけです。この340度の線上に管制官がレーダー誘導してゆくわけですが、進入方向は大きく分けて4方向になります。

 1つめは北海道方面から来るルートで、
中津川から磁方位220度の方向で進入後レーダー誘導で最終進入コースに入ります。ILSに航空機を乗せるためには 旋回角度30度以内で進入させることになっていて、この場合ですと最後はスリーワンゼロ(磁方位310度 ・ほぼ北西向き)で右旋回してILSアプローチへ進入します。

 2つめはアメリカや成田からのルートで、新城から北北西に入ってきます。このルートも最後は310度でILSアプローチへ進入しますが、旋回角度は浅くかなり直線的に通過してゆきます。

 3つめは東南アジアや沖縄から来るルートで、知多半島を北上後
テンパ(愛知郡東郷町付近)を通過することの多いルートです。最終進入は今までとは逆にゼロワンゼロ(磁方位010度・真北からやや東)になります。2つめと3つめのルートはほぼすべての航空機に同様の指示が出されるため、定点観測しているとほとんど同じ位置を通過してゆくのがわかります。

 最後のルートは中国や韓国、福岡などから琵琶湖を通ってくるルートで、大津通過後磁方位160度で飛行します。その後120度、090度と次第に方向を北東に向けて行きます。最後はさきほどと同じ010度で進入しますが、
前後の着陸機をとの距離を調整するためにかなり南に誘導されるものから、アウターマーカーぎりぎりで進入してゆくものまでまちまちです。

★RW16最終進入ルート
 
RW16はちょうどさきほどのILSアプローチと反対側から南南東へ磁方位160度で着陸コースに乗りますが、こちらにはILSがなく名古屋空港のVOR(航法援助施設)を使ってアプローチします。

 RW16最終進入コースは
名古屋VORの339度の方向になります。このコース上へレーダーベクターしてゆきますが、ILSを使うRW34ほどきまった地点でインターセプトしていないようです。こちらのルートは正直申し上げてあまり詳しくないのでこのくらいにします。

★出発ルート
 
出発機はSID(計器出発方式)に決められたルートで上昇し、途中からレーダーベクターすることが主流です。
 北海道やヨーロッパ方面には
「ヤリ3ディパーチュア」と呼ばれるルートで上昇してゆきます。このルートはレーダー誘導することがほとんどなくエンルート(航空路)へ上昇してゆきます。 

 北アメリカ・ハワイ方面は
「トキ4ディパーチュア」と呼ばれるルートで上昇してゆきます。このルートもレーダー誘導することがほとんどなくエンルート(航空路)へ上昇してゆきます。

 グアムやニュージーランド、成田方面は
「ハママツ3ディパーチュア」と呼ばれるルートで上昇してゆきます。このルートは離陸後すぐに「プロシード・ダイレクト・ハママツ」( ハママツへ直行せよ)という指示が出て、その後はほとんどレーダー誘導なくエンルート(航空路)へ上昇してゆきます。

 北九州や中国、韓国方面は
「ナガラ4ディパーチュア」と呼ばれるルートで上昇してゆきます。このルートは離陸後すぐに「ベクター・トゥ・オオツ」する航空機が多く、大津VORをめざして飛行してゆきます。またそれ以外にも「ミヤズ」や「ツルガ」などへ多くのレーダー誘導が行われています。

 最後は東南アジアや沖縄方面へ出発する
「クワナ3ディパーチュア」と呼ばれるルートで、このルートはRW16離陸時はほぼすべて「プロシード・ダイレクト・コウワ」( コウワへ直行せよ)します。それに対してRW34離陸時は同じく「ダイレクト・コウワ」する場合と「フライヘディング220・フォア・ベクター・トゥ・クシモト」 (機首を磁方位220度へ向け飛行せよ、クシモトへ誘導する)というレーダー誘導が行われる場合に分かれます。ちなみにクワナ 3ディパーチュアで最後まで飛行してエンルートに上がることはまずありません。

 私は以前に名古屋空港の管制官と自分の乗った航空機のキャプテンの双方にこの「ダイレクト・コウワ」VS「ベクター・トゥ・クシモト」の違いについて尋ねたことがあります。まず管制官からの回答ですが、どうもこの2つの違いは
管制官の好みのようです。つまり特別にこの場合がどちらという基準はなく、「ダイレクト・コウワ」が好きな方と「ベクター・トゥ・クシモト」が好きな方がいるということのようなのです。

 次にキャプテンですが、何名かの方にお伺いしましたが、みなさんそろって「ダイレクト・コウワ」がいいとおっしゃいました。飛行距離的には「ベクター・トゥ・クシモト」のほうが短いかもしれないが、やはり
自分のペースで飛べる「ダイレクト・コウワ」がいいようですね。ちなみにそれじゃあキャプテンから「ダイレクト・クシモト」をリクエストしたらどうですかと尋ねてみたら、「ダイレクトをリクエストするときは1つ先のポジションまで」
というのがパイロット側のエチケットだそうで、まれに管制官が「ダイレクト・クシモト」を指示すると「サンキュウ」とお礼を言われる方もいらっしゃいますよ。 

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